佐藤先生は1980年代から四十年以上かけて日本美術におけるアメリカ、もしくは海外との関係性を見てこられたと思うのですが、かつてと比べて現在その関係性がいい意味でも悪い意味でも、変化してきたなといったことはございますか。
情報化が進んでいるって、やっぱり良いことだろうと思いますね。今、アメリカに限りませんが、特に外国の美術館・博物館って、自分のところのコレクションの画像というのは積極的に公開していますよね。これは非常に助かります。日本の博物館・美術館は、「e国宝」※15などの形で部分的には行われているんですけど、これをもっと拡大してくれるといいなと思います。国内にいながらにしてどういうものかがある程度つかめるというのは、これは重宝なことなので、こんなのもあるんだと気がついたりしますしね。 ※15 …国内の代表的な所蔵品データベースとしては、「e国宝」(国立文化財機構)や「文化遺産オンライン」(文化庁)などがある。
ボストン美術館も、鹿島調査を通じて撮られた写真によって情報公開が進んだ面があるので、おかげさまでかなり発達したものが今はできておりますけども。
ボストン美術館とか、本当に一番じゃないかな。とにかくかなり早い段階でやりましたよね。こういう調査というのは、鹿島美術財団の援助で実行していって、やっぱりよかったと思うんですよ。ほかの主要なコレクションについても、同様の調査ができたらいいなと思いますけれども、ただ、今までに何人もの人や幾つもの機関が調査に入っているわけで、その辺の過去の蓄積を整理するほうがちょっと先かもしれません。何かばらばらに調査に行って、ばらばらに成果が出ているという感じですから。
確かにそうですね。これはもう日本の美術館においても同じことが言えますね。
ええ。日本の博物館・美術館というのは、とてもそういう点で遅れているので、もっと所蔵品についての情報公開をやってほしいですよね。だから、そういうところで人手がないとか資金がないというんだったら、どこかが援助できる仕組みがあるといいと思うんですよね。
データベース化と、情報公開ということですよね。
その情報を見た上で、個々の研究者としては、改めてこれをちょっと調査させてほしいということを思うわけで。だから、その調査をまた受け入れていただきたいなと思う。私がこの道に足を踏み入れたのは、鈴木敬先生の『中国絵画総合図録』ための調査というのが、ちょうど学生時代に行われていたということがやっぱり関係があるんですよね。ちょうど鈴木先生がアメリカの調査を終えたところで、東大の美術史の学生たちは写真整理のアルバイトというのを夏休みにやったわけです。学部生の頃から携わり、こういう仕事の大事さというのを身にしみて学んでいるわけで、それに比べたら実は日本の絵画については、こういうことは全然やられていないということも当時から痛々しく思っているわけです。当時、まだ東大構内にビアガーデンがありました。アルバイトは仕事を終えたら、そちらでビールという、そういうお定まりのコースみたいなものが出来上がって。
先生方と学生と、皆さんでですか。
当時助手だった嶋田英誠さん(後、跡見学園女子大学教授)が大分貯金をはたいたと聞いていますが、ごちそうになりまして、先輩たちとそのときによく飲みましたね。
今の先生の出発点のもうひとつに、そのアーカイブ事業があるという、大きく言えばそういったことでよろしいですか。
ええ、そうです。
最後に、今後日本美術史界が海外と交流していく上で、ここを改善すべきだ、こうしたほうがいいといったものはございますか。美術館関係だけではなく、大学、学生も含めて、何かございましたら。
なすべきこと、できることは、今やっていると思うので、特にさらにこれをというのは思いつかないですけどね。とりあえずパンデミックもやや収まりつつあるようで、やっぱり人の移動を伴うシンポジウムというのが復活してほしいなとは思います。やっぱり直に会わないと、どうも細かく話が通じないというような、どこでもそうだろうと思うので、ちょっとオンラインを離れて生身の交流というのを早く復活してほしいなとは思いますよね。